窪田空穂記念館

2007年9月22日 by Eiji Saito

信州アルプスの風光明媚を独自の叙情に託した歌人、窪田空穂。どうやらその記念館が仕事場の近くにあるらしいということを知ったのはわりと最近のことで、一度は行ってみなければと思いつつ、なかなか機会をつくれずにいたのでした。よく晴れた日の昼下がり、たまたま休日出勤をした折にふと思い立ち、休憩ついでにふらっと立ち寄ってみることに。

 

記念館周辺は民家が点在するひっそりと落ち着いた雰囲気で、気をつけていないと通り過ぎてしまうほど。建物はそれ自体として興味深いもので、フォルムこそモダンなものの、空穂の生家ゆずりとでもいえそうな大きな屋根が印象的。間接的な光の取り入れ方を考慮した展示の空間は、光と影の調和を思わせるなど随所に静謐さの演出が見られます。二階の展望ギャラリーの菱形の窓からは空穂の生家をそれこそ額に収めるようにして眺めることができという、ちょっとユニークな工夫も。

 

お気付きのとおり、空穂の生家は記念館の真向かいに位置するわけですが、小道を挟んで対面するかたちになるその景観は、周りの大木も相まってどっしりとした存在感で、それだけでどこか悠久の時を感じさせもします。ちなみに記念館の展示物には生家の模型もあり、その気になれば間取りなど正確に窺い知ることもできるでしょう。

 

ところでこの生家、実は文化行事の一つとして定期的に将棋教室が開かれているらしく、偶然にもちょうどその日は東京からプロの棋士が子供たちに手解きをしに来ているとのことでした。ちらと覗いてみると、ちょうど子供たちが真剣に取り組んでいる様子で、なるほどこれだけ広い屋敷ならばそうした行事にもうってつけという気がします。

 

さて窪田空穂といえば短歌ですが、その点に限っていえば私自身は空穂の良き読者とはいえないかもしれません。というのも、これまで空穂の著した作品に触れるにつけ、むしろ短歌という形式から溢れ出してしまうような部分にこそその魅力の源泉を感じ取っていたからです。奥深い短歌の世界にはいつか没頭してみたいとうっすら感じつつ、どちらかというと散文詩やエッセイのような馴染みあるものに引き寄せて読んでいるというのが現状だったりするわけです。

 

もっとも、老いを感じさせない瑞々しさを生涯に渡って失わなかった空穂のこと、彼自身が短歌の新しい読み方を模索していなかったとも限らないという気もします。記念館が伝統とモダンのアマルガムからなっていたように、従来の短歌の存在に新たな光を当てるような読み方というものがあってもよいのかもしれません。

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